1960年代から1970年代にかけて、水銀やカドミウム、六価クロムなどの重金属やPCBなどの化学物質による公害が発生し、人間や動物の健康を害し、植物が枯れる等大きな社会問題となった。化学物質が事故などにより土壌に浸透したり、不法に土壌へ捨てられ、土壌の持つ浄化能力を超えて過剰に土壌へ入ると、土壌が持つ諸機能を損ない、地下水汚染をはじめとした環境汚染を引き起こすことにもなる。土壌汚染が明らかになると対策が実施されるが、一度汚染された土壌環境を再び回復することは非常に困難であることは、今までの土壌汚染から明らかである。
米国では1970年後半に「ラブ・キャナル事件」として有名な土壌汚染が問題となった。この問題はニューヨーク州北部のナイヤガラ近くのラブ運河を買収したフッカー電気化学は1950年頃に多くの有害化学物質(BHC,ダイオキシン,トリクロロエチレンなど)を合法的に投棄したことから始まった。その後、この運河は埋め立てられて売却され、その上に学校や住宅が建設された。しかし、埋め立て後30年をへて、投棄された有害化学物質が漏出し、住民たちに遺伝子の異常が現れ、流産や死産が多発し社会問題となった。1978年非常事態宣言が出され、立ち退き指定を受けた200の住宅や学校が埋められた。この事件を契機にEPA(環境保護庁)は、1980年に関係者(廃棄物排出者、輸送業者、土地の管理者、融資した金融機関など)すべてに汚染を完全に除去する費用を負担させる包括的環境対処補償責任法(スーパーファンド法)を成立させた。この結果、米国では土壌汚染は大きな環境リスクと考えられるようになり、土地の売買には土壌調査が欠かせないものとなった。
築地市場の豊洲移転問題は2000年頃土壌対策などを東京ガスと協議したことになっている。日本の土壌汚染や米国のラブ・キャナル問題など20年以上も前に起き、その対処の難しさも十分に知っていたにもかかわらず、その対策コストの計算もせず、強引に豊洲移転に踏み切ったことは、我が国の政策によくみられる現象だ。アスベスト問題しかり、ハンセン病、水俣病などしかりである。個人に及ぶ問題よりも企業の利益、あるいは目先の全体の利益を追求する姿勢は依然として変わっていない。まさに、政府が忌み嫌う中国などと同レベルである。