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「お金」の本質と資本主義のマジック

 アベノマジックを考える前に、基礎的な概念を学び直そうと思った。Nから問われた日銀の政策と三菱UFJ銀行の仮想通貨導入問題は結局「お金」の話で、「お金」とは何かを押さえてからアベノマジックを考えることにした。「お金」の本質についてはやはりマルクスの『資本論』が群を抜いていると思われる。『資本論』は大学の時から2度読んで途中で挫折したが、今回は「お金」を中心に3度目の挑戦となる。

 『資本論』は「社会的な富はすべて商品として現れている。」として、この富の構成要素から分析が始まっている。そして「商品は、まず第一に何らかの有償性、つまり使用価値をもつものである。その使用価値は商品の持つ性質によって規定される。」としている。「商品の持つ性質」とは化学的組成や形状さらにその商品をつくる労働の違いによるものである。商品は単なる使用価値だけでなく、「もう一つ使用価値を素材的な担い手とする交換価値をもつという側面」をもっている。そして、交換価値は量的な関係として現れる。物々交換で考えると、この量的な関係は交換比率として現れる。この交換比率は需要と供給の関係で現象として多少の変動はあっても、ある程度の水準にある。マルクスは「20エレの亜麻布は1着の上着に値する」を例として交換における価値を考察している。(エレとは、布地などの寸法を測るための単位。亜麻布とはリンネルとも呼ばれ、亜麻の繊維を原料とした織物の総称。プロイセンでは約67センチ、バイエルンでは約83センチ)

20エレの亜麻布=1着の上着

 この式は価値方程式と呼ばれ、左辺(価値を表現するもの)は相対的価値形態、右辺(価値表現の材料)は等価形態とマルクスは呼んだ。今、使用価値から見た場合、亜麻布と上着は違うものだから等号で結びつけることができない。とすれば、等しいのは交換価値ということになる。違うものが同じであるということは、具象(使用価値)的なものを捨象(抽象)していって、はじめて等しくなる概念が生まれる。だから、交換価値とは使用価値からの「抽象」を意味する。この「抽象」はいずれ貨幣へと進化する。貨幣が生まれると交換は貨幣を介した交換へと変化していった。

20エレの亜麻布=10ポンド=1着の上着=10ポンド=小麦0.5クォータ
W(もの)-G(お金)-W’(もの)ーG-W”

 しかし、当初貨幣は「抽象」によって種々の「もの」と交換は可能だが、単なる物々交換の代用物でしかなかった。しかし、貨幣の流通が増加し、資本主義になると、それまでの使用価値の交換を主体とする取引に加え、交換価値そのものを取引する形態が生じた。

G(お金)-W(もの)-G'(お金)

 商品取引を貨幣から始めると10ポンド(G)が最終的に10ポンド(G’)と交換しても意味がない。10ポンドが20ポンドになる、といったように貨幣が増加しないと交換は意味をもたない。これが資本主義のマジックといわれるものだ。なぜ10ポンドが20ポンドになるのか。マルクスは次のように分析する。Gすなわち資本は商品(W)を造るために、資財・機材・人に分配される。そこで、資本から資源・機材を購入し、人を雇用し賃金を支払う。

お金(G1)-資材(W1)
お金(G2)-機材(W2)
お金(G3)-雇用(W3)
G(=G1+G2+G3)ーW(=W1+W2+W3)

 結局、この交換は、等価交換である。そして、この商品を売ると

GーWーG’(=G+α)

 資本主義のマジックでαだけ「お金」が増加する。資本主義ではこのシステムが際限なく繰り返される。資材や資源はその使用価値を求めて等価交換したものである。ところで人件費、労働の使用価値とは何だろう。労働の使用価値は同じような仕事を継続的に続けることである。すなわち、労働し、食事し、家に帰ってテレビを見て、風呂に入ってリラックスして睡眠をとり翌日会社に行って再び労働をする。自己再生産する費用が労働の使用価値である。等価交換を基本として考えた場合、αは労働から生じた価値と考える他ない。このαは剰余価値と呼ばれる。現在ではこの考え方は資本主義にとって都合が悪いから、表面上、剰余価値は利潤・配当あるいは地代・利子という形態として、賃金とあわせて「所得」という総称で概念化され本質が隠されることになる。実際には、余剰価値は労働者によって作り出された価値であり、この剰余価値を雇用費用に加えたもの(W3+α)が労働の価値である。そう考えて定式化すると。資本主義のマジックは余剰価値を曖昧にして表面上見えにくくしたマジックだった。

お金(G1)-資材(W1)
お金(G2)-機材(W2)
お金(G3)-雇用(W3
支出:G-W(=W1+W2+W
収入:      W’(=W1+W2+W+α))ーG’(=G+α)

 このマジックは、現在ではじゃぶじゃぶな「お金」を使った株や不動産の投機に使われミニ・バブルの様相を呈している。抽象化された「お金」は「お金」を求めて永遠に増え続けようとする。

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