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新型コロナウイルス超起源論と超ロックダウン論

・超起源論

 新型コロナウイルスの起源について現在2つの見方がある。一つは中国の科学者の「新型コロナウイルスは武漢の野生動物市場で動物から人へと感染した可能性が高い」(野生動物起源論)というものであり、もう一つは週刊で刊行される査読制の医学雑誌Lancetで発表された「新型コロナは海鮮市場が起源ではないという強い証拠がある。華南海鮮市場はコウモリを販売していなかった。また、武漢の多くのコウモリ類は新型コロナ発生時、冬眠していたと考えられる。感染者の34%は、海鮮市場とのコンタクトはなかったと報告されている。また、最初のコロナ患者とその後のコロナ感染者との間では、疫学的関連性が見つからなかった」(武漢研究所起源論~武漢研究所から新型コロナが事故で流出した可能性を裏づける“予備的証拠”)というもので、米国では広く流布しているものである。この2つの見方は誰でもわかるが、政治的な駆け引きの中、決着など着くわけがない。どちらの考えに加担したとしてもウイルスの発生源は武漢である。
 ヘーゲル的に考えると、2つの対立概念がある場合どちらかが普遍的であるということはまずない。どちらにも共通する概念、すなわち2つの概念よりも時間的、空間的にも広範囲に成立する概念を創出することでより普遍的な概念に到達する。だから、どちらの意見にも加担する必要はない。
 野生動物起源論にしても武漢研究所起源論にしても社会市民生活の80%(?)以上を統制する国家で起きた問題の解明には国家トップの許可がなければ原因などわかりえない。しかしながら、トランプのように中国ばかり批判できるのだろうか。米国にもウイルス研究所はあるし、日本を含む先進国の多くに同様の施設がある。もし意図的にウイルスをばらまいたとしたら問題だが、国家の意志としてはばらまくなどということは考えられない。なぜなら制御不能なウイルスをまけば自分の首を絞めるだけだからだ。だとすると、当然事故と考えることができる。事故だとすれば、ウイルス研究所のある国家ではどこでも起こりうる問題である。ではこの新型ウイルスが世界中に拡散した原因はどこのあるのか。
 中国が国の面子か主席の面子かは知らないが、情報を統制して問題を国内の一部で制御しようとしたことにある。もし、初期の段階で情報を公開し、世界中の専門家や医療関係者がウイルス拡散阻止の医療に動いてすべての患者を識別し隔離すれば、武漢の一部の問題に固定化できたはずだ。しかし、これは中国だけの問題ではない。ウイルスは国や人種を選ばないのだからこの未知のウイルスに対抗するためには国家という枠を超えて知の結集を図らなければ到底太刀打ちできない。「他岸の火事」とみなしていた米国や日本その他の先進諸国なども原因の一因である。結論すればすべての国家がウイルスの拡散に手を貸していることになる。いいかえれば幻でしかない国家という枠組みが根本原因であることは確かのように思える。

・超ロックダウン論

 以前私は「新型コロナウイルス問題における社会的選択と個人的選択」を書いた。その時は「社会と個人」が背離の関係にあるという意識を持っていたがその現在における重心の位置(社会と個人の重さ、言いかえれば個人の自由度)をどのように定められるかを考えあぐねていた。歴史的にみると、「社会と個人」の観念上の関係はタブーや黙契などによって元来疎外関係にあったと考えられるが、社会の強制力は徐々に薄まり重心は個人に移ってきた。個人の行動が社会に影響を与える場合、「私権の制限」を現在どのようなレベルに設定すればいいのかを考えていたとき、最近科学教育総合研究所の小田垣孝の「新型コロナウイルスの蔓延に関する一考察」(2020/5/5)という論文が公表され、明確にされてきたと考えている。この論文では『科学』岩波書店、2020年5月号神戸大学牧野純一郎の論文のSIRモデルを修正して「検査して陽性ならば隔離する」という概念をいれ市中感染者減少の傾向をとらえたSIQRモデルを作成し予測している。その結果は下図のとおりである。


図 いくつかの対策による市中感染者数の減少の様子の比較。 
(0)現状、 (1)接触8 割自粛、 (2)都市封鎖、 (3)検査4倍増、(4) 検査2倍増と接触5割自粛                 
小田垣孝「新型コロナウイルスの蔓延に関する一考察」より 

 現政策の接触8割自粛(1)や都市封鎖(2)よりも検査4倍増(3)の方が圧倒的に感染拡大を防ぐことを意味する。原理的にいえばPCR検査など感染者を完全に把握し医療のため隔離すれば、感染者以外の私権を制限する旧来型の都市封鎖(ロックダウン)などは必要ないということだ。考えてみれば当然のことなのだがコロンブスの卵ではないが愚かにも気が付かなかった。このことを理論的に説明したのがこのモデルだ(ただし、対象としたエリア外部からの感染者の流入や流出はないとしている)。現状のPCR検査を4倍にすれば8日程度で市中感染者が1/10になるとしている。できれば全員に繰り返し検査をし、確定した感染者を隔離し治療する施設を十分確保すれば、ロックダウンなど必要なくなるはずだ。
 結局新型コロナウイルス問題をてことして安倍自民党政権が薦める「憲法に例外条項(緊急事態条項)を」という根拠がなくなったことを意味する。とにかく検査数を拡大し、そして感染者を隔離・治療することが市民経済への影響を最も小さくする方法で、「私権の制約」も病気隔離以外ない現在的レベルの選択となることを示唆している。現況のPCR検査の少ない状況は市民経済にとってかなり大きな悪影響を与えるとともにウイルスにとっても拡散しやすい状況を作りだしている。悪く勘ぐれば、安倍政府与党はわざと危機感をあおり、「憲法に例外条項(緊急事態条項)を」入れることを画策しているとみることもできる。

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